『信濃毎日新聞』 2006年(平成18年)8月3日

アフガンの子どものメッセージ
カブールの幽霊展
軽井沢で50枚展示
透けて見える戦争・犯罪


「夢見る権利さえ奪われたアフガニスタンの子どもたちんの現状を知って」……。「軽井沢絵本の森美術館」(北佐久郡軽井沢町)で、アフガンの子らが描いた「カブールの幽霊展」が開かれている。二十年以上続いた戦乱の復興途上にある同国では、今も帰る家を失った多くの避難民が、廃墟やテントで暮らす。企画展は、難民キャンプなどで創作ファンタジー映画の上映をしている支援団体が主催。子どもたちに犠牲を強いる「戦争」とは何なのか。幽霊の絵に込められたメッセージを受け止めたい。

涼やかな風が吹き渡る絵本の森美術館庭園。木立の間にゆらゆら、人形に着せた"幽霊"がプリントされたTシャツが翻る。毛むくじゃらの動物のような幽霊、銃を持つ兵士の幽霊、いたずらっぽい笑顔の子ども……。切なくも、ユーモラスでもある約五十の幽霊たちが、来場者を出迎える。
京都市から訪れた仲真悠ちゃん(5)は、「おめめが真っ赤なのや、お顔が大きいのがいるよ」と 興味津々。母親(40)は「戦争でたくさん人が亡くなっているからでしょうか。現実と懸け離れた姿でなく、実際の死者や動物に似た幽霊が多い気がします」と話した。
主催のNPO法人「Like Water Press」(東京)は二〇〇三年八月、元編集者や主婦、医療NGOのメンバーらが設立。幽霊展の企画は、タリバン政権崩壊後の〇二年、国連児童基金(ユニセフ)などがカブールで実地した聞き取り調査で、「最も怖いと思うこと」のトップが「幽霊」だったことに着想を得た。現地で実際に「幽霊を見たことがある」と言う子に紙とペンを渡し、描いてもらったものだ。
黒焦げで真っ赤な目をした幽霊は、十四歳のメトゥッラー君が描いた。支援者に「戦火に巻き込まれて死んだ友だちに夢の中で会った」と語ったという。
幼子の臓器を取り出す女性、地雷の上を歩く母子、銃を持つ男性の幽霊……。戦争と犯罪の影が透けて見える作品は少なくない。
幽霊展は、〇五年十月、カブールを皮切りに、今年一〜二月に東京都内で、五月に神奈川横浜市で順次開催。絵画をTシャツに仕立てた野外展は、今回の軽井沢会場が初めてだ。
◇ 同NPO法人は、アフガン難民キャンプや、首都カブールの小学校、孤児施設を巡回する「ファンタジー劇場キャラバン」で、大自然の実写を交えた自作の映像作品を上映してきた。
ワゴン車に機材一式を積み込み、これまでに二十二カ所で上映。生まれた時から戦争や荒廃の土地しか知らない子どもたちは、初めて目にする海や森、ファンタジーの世界を、食い入るように見つめたという。
代表の陳富子さん(40)は、日大芸術学部を卒業後、韓国留学を経て編集プロダクションに勤務。撮影の仕事でカンボジアやアフリカの遺跡や秘境を訪れ、物売りなどで働く子どもたちの「飢えた真摯なまなざし」に出会った。
当時は「見ないふりをしてやり過ごした」その瞳。だが、米軍のアフガン空爆をきっかけに支援活動を始め、〇二年、訪れた難民キャンプで再び同じ瞳に出会い、「もう無視できなくなった」。貯金を取り崩して活動に身を投じた。
陳さん自身、幼いころから在日韓国人二世として、「どこにも帰属できない違和感」に悩んだという。寂しさを埋め、希望をくれたのが、映画や本の物語、空想の世界だった。
「過酷な環境の中で、あらかじめ目を輝かせる権利すら奪われた子どもたちがいる。物資の支援でなく、夢をはぐくむための一滴の"水"を届けたい」
展示は三十一日まで。期間中「チャートストリート軽井沢」で関連グッズを販売。松本市美術館では八〜十七日、幽霊の絵画展を開く。活動への支援も募る。問い合わせは事務局(03・5394・8138)へ。