FM KYOTO 89.4 kHz / Alpha-Station

"C's Navigation" (Sat 9:00 --11:00)
DJ:川島 郁子さん


2007年2月3日(土曜日)


さて今日のC's Navigation、最後はわたし川島が先日出かけて来ました「カブールの幽霊展」をみなさんにご紹介したいと思います。先週、"Kyoto Today"でのコーナーでも少しご紹介しましたが、現在、左京区の国際交流会館で展開されている展覧会で、カブールというのはアフガニスタンの首都のことなんですね。そのアフガニスタンの子どもたちが描く絵がここに展示されております。
その展覧会をご紹介する前にアフガニスタンについて少しお話ししたいんですけれども、アフガニスタンという国は1979年の旧ソ連の侵攻をきっかけに25年以上に渡って戦争や内戦がずっと絶え間なく続けられてきた国でして、戦渦の中、故郷を追われて隣国のパキスタンやイランに避難した人、いわゆるアフガン難民の数が最も多いときで600万人にも上ったと言われているんですね。そして2004年以降、そういったアフガン難民に対する<帰還政策>というものが進められてきましたが、いまもなお多くの人びとが国外の難民キャンプでの生活を続けております。また、やっと母国へ帰れた人たちも、その多くが爆撃によって破壊された廃墟や干ばつで荒れ果てた土地に張られたテントの中で、「国内避難民」として厳しい生活を余儀なくされているんですね。さらに地雷も多くて、国土全土が地雷原といってもおかしくないそうです。ちなみにアフガニスタンの現在の平均寿命は男が45歳で女が46歳、そんな統計も出ていますし、これはアフガンに取材に行ったある記者の方から直接聞いたんですけれども、栄養失調で4人に1人の子どもが5歳未満で亡くなっているそうなんです。
ちょっと前置きが長くなりましたが、この「カブールの幽霊展」は、そんな過酷な状況の中で生まれ育った子どもたちの描く幽霊の絵が展示されているわけなんです。
主催しているのはLike Water Press(ライクウォーター・プレス)という東京のNPO法人で、難民の子どもたちや孤児、ストレートチルドレンたちのために現地のキャラバンで子どもたちに<夢の糧>となるようなファンタジー映像の巡回して上映会というのを開いたり、それから子どもたち一人一人の足に合う靴を届けたり、そういう活動を続けているグループなんですね。2005年から、この「カブールの幽霊展」に取り組んでいるそうですけれども、「なぜ幽霊の絵なのか?」というとですね、これはアフガンの子どもたちに行った2つのアンケートの結果が幽霊だったからなんです。その2つの質問というのは「いま最も嫌だと思うものは何?」、そして「いま最も怖いと思うものは何?」というもので、この2つの質問に対する答えのいずれも一位が「幽霊」だったそうなんですね。この結果からアフガニスタンの子どもたちに彼らにとっての幽霊とはいったいどんな形をしているのか……、それを絵に描いてもらおうというので、この活動が始まったということです。その幽霊の絵、200点以上が展示されております。
幽霊というと、わたしたちなんかは、こう、曖昧模糊としたイメージをするんですけれども、展示してある絵を見ていますと、結構具体的=リアルなものが多くて、たとえば骸骨の絵だったり、野生化した犬だったり、死んだお父さんやお友だちだったり。またヘビやサソリの絵も多かったんですが、これはまた「地雷」という幽霊を表現しているんじゃないでしょうかねぇ……。
こんなふうに生々しい体験が幽霊の姿を借りて、ストレートに描かれている感じがしました。とくに、わたしが目がとまってしまったのは「翼のない鳥」、これを描いたのは12歳の少女。その絵には彼女のこんなコメントが添えられていました。
……この鳥は困ることがないだろう。
鳥が飛べることを、この鳥たちは知らないようだから。
これは、彼女の心の奥にある深い闇を感じさせるコメントでした。彼らにとっての怖い幽霊とは夢の中にだけ出てくるもんじゃないんですね。逃げようとしても逃げられない、もっと身近にあるものなんですよね。そして、そんな幽霊たちと日々向き合っている、そんな彼らの置かれている厳しい現状がヒシヒシと伝わってきました。
しかし描かれているもの自体はまさしく彼らの映す幽霊なんですが、その色遣いなんかはとってもカラフルで、とってもキュートな幽霊もあったりするんですね。これにもビックリしました。本当に楽しんで描いている様子が見えてくるような絵なんですよねぇ。
「どうして、こんなに楽しそうな絵が描けるの?」
「どうして、そんな絵が多いの?」
と、Like Water Pressのスタッフの方に率直な疑問をぶつけましたら、アフガンの子どもたちにとっては絵を描くということ自体が楽しいんですよ、と話して下さいました。なんでも現地には生まれて初めて絵を描いた子どもたちも大勢いたということなんですね。もしかすると、彼らにとって紙とカラーペンというのは、厳しい現実から離れられる唯一の魔法の道具だったのかもしれませんよね。そんな色遣いから、暗い現状の中でも明日を生きよう、明日を生きたい、と願う子どもたちの生命力というのも垣間みられる……、そんな展覧会です。
この「カブールの幽霊」展を後にして、わたしもスタッフもしばらく色々考えさせるところがありましてね、実はこの展覧会自体、みなさんに詳しくご紹介することをどうしようかって迷ったりもしたんですよ。というのも、「紹介しました、ハイ、そして見に行ってもらいました」、それだけでいったい、この子どもたちの何が救えるのかな……、みたいなことまで考えがいってしまいまして。でも、そのときフッと、マーチン・ルーサー・キングの有名な言葉を、わたし、思い出したんです。
……後世に残るこの世界最大の悲劇は、悪しき人の暴言や暴力ではなくて、善意の人の沈黙と無関心だ。 という、あの言葉を思い出して、少なくとも、わたしとスタッフはこの展覧会に足を運んだことで無関心からは一歩踏み出せることができたんですね。だから是非、みなさんにもその第一歩を踏んでもらいたいなと、そんな思いで今回ご紹介させて頂きました。
「カブールの幽霊」展、現在、左京粟田口にあります京都市国際交流会館の<姉妹都市コーナー展示室>で開催中です。国際交流会館の場所の方は、東王子通りから仁王門通りを南禅寺方面に向かって東へ、南禅寺前の交差点の側となっております。アクセスは地下鉄東西線「蹴上」駅から歩いておよそ10分、または市バス「京都市美術館」前から歩いて15分ほどとなっています。開催期間は2月11日、日曜日までです。但し2月5日の月曜日だけは休館となっています。時間は午前11時から午後8時まで。ちなみに2月7日、今度の水曜日と10日土曜日には、会場で割れたマグカップを継ぎ合わせて再生した割れ茶碗で、アフガニスタンの紅茶を頂く<割れ茶会>という催しも行われるそうです。両日ともに午後6時から8時までとなっていますから、お時間ある方は是非お出かけになってみて下さい。尚、この「カブールの幽霊」展は、明日日曜日までは烏丸御池にある新風館3階のトランスジャンルでも開催されております。
アフガニスタン以外の世界の国々でも過酷な生活を強いられている子どもたちがたくさんいます。日本にも困難にさらされている子どもたちがたくさんいます。「カブールの幽霊」展はそういった子どもたちを含めて考えるきっかけになると思うんですよね。ハッピーな気分になれるとは言いませんが、何かを考えさせられる展覧会であることは確かです。アフガニスタンを担う子どもたち、彼らもまたこの星の未来を受け継ぐ者の一員です。そんな子どもたちの絵を是非この機会にご覧になってみて下さい。