カブールの幽霊との出会い


アフガニスタン
夢見ることさえ、あらかじめ奪われている子どもたちの祈り

それは、ある偶然からはじまりました。
昨年(2005)の初め、新たに展開されるカブールでの活動に向けて、わたしたちはそこに生きる子どもたちの実態を事前にリサーチしていました。そして、ある一つの興味深いデータに出くわしたのです。それは、UNICEFとSave The ChildrenというNGOが共同でまとめた"Children in Kabul(カブールの子どもたち)"という報告書でした。
2002年、タリバン政権の崩壊直後のカブールで、そこに生きる子どもたちの<心のありよう>を、聞き取り調査を中心にまとめられた資料です
わたしたちはそのなかの一つの報告に心を留めました。
それは、子どもたちが「最も怖いと思うもの」のベスト10をリストしたものです。


いま、最も怖いと思うもの

<1> 幽霊
<2> 暗闇
<3> 銃を持った男
<4> 爆撃と爆発
<5> 危険な場所
<6> 地震
<7> 母の外出
<8> 狂った人
<9> 女の子をつけ回す男
<10> 独りでいること

いま、最も嫌だと思うこと

<1> 幽霊
<2> 爆撃と爆発の音
<3> 誰かが苦しんでいること
<4> 重労働
<5> 地震/殺されること
<6> 交通量の多い道路の横断
<7> 死
<8> 家族の中に心配事があること
<9> 家の中に食べ物がないこと
<10> 客がきて用事が増えること


そのリストのなかで、子どもたちは、たとえば「銃を持った男」や「狂った男」、そして「独りでいること」などと並んで、「怖いもの」の第1位として「幽霊」を挙げているのです。
さらに、別の項目、「何が最も嫌か?」というリストにも、「誰かが苦しんでいるのを見ること」「家の中に食べ物がないこと」と並んで、そのリストの第1位は、やはり「幽霊」なのでした。

………その幽霊とは、一体、どのような姿かたちをしているのだろう?
その自問が出発点でした。

2005年3月、カブールを訪れたわたしたちは「幽霊を見たことがある?」と子どもたちに尋ねてみました。思いがけなく数人の子どもたちが頷くのをみて、その幽霊の絵を描いてもらうことにしたのです。
わたしたちが紙とカラーインクを配ると、子どもたちは一心に幽霊の絵を描きはじめました。生まれて初めて絵を描いた子どもたちもたくさんいました。
彼らの描いた「幽霊」の絵は、わたしたちの予想もしなかったものでした。
それは、「幽霊」という非現実の存在/幻想というには、あまりにもリアリティーにあふれているのです。戦争の不条理や悲惨を見据えながらも、子どもたちの豊かな想像力は、それを巧まざるユーモアや物語に仕立て直しているのです。それは、まさに子どもたちの自由な心だけがもつ、特権です。こうして、わたしたちは、その子どもたちの想像力の豊かさとリアリティーに目を見張ると同時に、その絵を他国の子どもたちや大人に見てもらうことで、この子どもたちの内なる<心の原風景=幽霊>を世界に発信していかなければならない、と痛感させられました。いま、わたしたちの社会のなかに、そうした<心の原風景=幽霊>がすっかり消えてしまっていることに、あらためて気づかされたからです。わたしたちの社会の子どもたちは、どのような<心の原風景=幽霊>を持っているのでしょうか?
こうして、2005年10月、わたしたちは「カブールの幽霊」展をカブールで開催いたしました。おそらくカブールで最初の子どものための展覧会です。そして2006年1月から、わたしたちは、日本の各地で<カブールの幽霊>展を展開しています。
この子どもたちの幽霊の絵に込められた想像力と夢を通して、「あらかじめ奪われている」ということはなにかを、いま一度、わたしたちと一緒に考えて下さい。
そして、あらかじめ奪われている子どもたちの<心の原風景=幽霊>に、思いを馳せて下さい。
想像力によって、わたしたちの手は、「あらかじめ奪われている子どもたち」の手を握ることができるのです。



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